この年まで風邪ひとつ引かず、全くの健康体で生きてきたというのに、病気だなんてそんなわけないだろう。
などと自問自答しているミヤコに、ノアは静かに尋ねる。
「……この国はどう?」
考え事に耽っていたミヤコは、予想外の質問に「え」と反応し、それから尋ねられたことを理解する。
それは、尋ねるまでもなくわかっているだろうに。
「良い国だと思う。」
なんの迷いもなく答えるミヤコに、ノアは苦笑した。
「……ありがとう。」
間違いなくそれは、母国を褒めてもらったことへのお礼だった。
ノアもやはりこの国が好きなんだろうとミヤコは思って、そこでふと思い返す。
そういえばノアは、国の外で倒れていたんじゃなかったか。
それも、おなかをすかせて倒れていた。体力も落ちていたようだった。
何故だろうかと考えを巡らせ、けれどすぐに諦めた。
考えてもわからないだろうし、何より隣に本人が居るのだ。聞けば済むことである。
だからミヤコは、ノアを見上げて口を開き。
「あのさ、ノア。ノアはなんで――」
問いかけはすべて、言葉にできなかった。
不意にノアがミヤコの前に右手を伸ばし、立ち止まったからだ。
ミヤコは強制的に立ち止まる。
目の前にあるノアの手の理由がわかりかね、どうしたのかと尋ねようとし、ノアの顔を見やってから気が付いた。


