ミヤコがその小さな背中を見送る中、ノアは静かに立ち上がる。
しゃがんでいたのが疲れたのか、微かに息を吸って、吐いた。
ミヤコはノアへと視線を移し、先ほどの少女が語った話を脳内で反芻する。
「……なあ」ミヤコはノアのフードを見つめながら尋ねる。「お前、この国の王子様に似てるの?」
ノアが振り返った。その口元には苦笑のような笑みが浮かんでいた。
「さあ。他人の空似じゃないの。」
「……ふーん。」
たしかに、先ほどの少女は「やっぱり違う」と納得していたし、ただ顔がどこか似ているだけなんだろう。
じゃあ一体、この国の王子様とやらは、どんな顔をしているというのか。
ノアに似ているというのだから、とにかく顔は綺麗なんだろうな、とミヤコは想像を働かせてみる。
が、想像の材料がどうにも足りず、ノアの顔しか浮かばなかったので結局断念した。
まあ、この街に居ればどこかで見られるかもしれない。
そう結論付けて、ミヤコは3度目の正直とばかりに歩き始める。
もう2度も歩くのを中断させられたのだ、いい加減進まないと、この街を見て回れない。
ミヤコは振り返り、いまだ立ち止まったままのノアに声をかけた。
「ノア、早くしないと観光できないだろ。」
ノアが弾かれたように顔を上げた。ミヤコと目が合う。ミヤコはニヤリと笑ってみせた。
「俺がせっかく雇ってやったのに、その案内人は仕事放棄?」
ぱちくり、とノアの目が瞬いた。虚を突かれたような、そんな表情だった。
それからフッと、瞼を伏せて笑う。
「……失礼しました、お客様。」
時刻は午後3時。
まだまだ、1日は長い。


