ミヤコが少々不機嫌な顔をしたことに、ノアはまた少しだけ笑う。
今度こそ歩き始めようとしたミヤコに気が付き、ノアも笑いを引っ込めて足を踏み出そうとした。
しかし。
「――うわっ」
驚いたようなその声は、ミヤコでもノアでもなく、ひとりの幼い少女のものだった。
歩き出そうとしたノアに、向こうから走ってきたらしい少女がぶつかったのだ。
ノアは思わずと言った様子で両手を伸ばし、ぶつかった衝撃で倒れそうになった少女を支える。
ミヤコも驚いて足を止めていた。
少女が心配で声をかけようとしたが、その前にノアがしゃがみ込み、状況が呑み込めていない少女の顔を見上げ、口を開いた。
「ごめんね、大丈夫?」
その声色は、とても優しいものだった。
「えっ? あ、はい、大丈夫ですっ」
ぱちぱち、と大きな瞳を瞬きさせた少女は、笑顔を浮かべて答える。
良い子だなあ、というのは、少女を見ているだけでもわかった。
「わたしのほうこそ、ごめんなさいっ。きちんと前を向いていなかったの」
「そっか。じゃあ、今度はしっかり前を向いて歩くんだよ?」
「うん、ありがとう、お兄ちゃんっ」
少女は人懐こい笑みでノアにお礼を言い、そのまま立ち去るのかと思った。
が、しかし少女は、ふと首を傾げる。そうかと思えば、しゃがみ込んでいるノアの顔を、まじまじと見つめた。
横から見ているだけだったミヤコは、少女の行動が測らずも気になった。


