「お待たせしてしまって、申し訳ありません!」
謝罪と共に現れたのは、昨日とは打って変わって王族の恰好をした、この国の王子ハルトだった。
部屋に居た全員がハルトのほうへ顔を向けた。
「あ、よかった、皆さんお揃いですね! 準備ができたようなので、そろそろ」
ハルトの笑顔に対し、部屋の皆は「うわー」と言いたげに、げんなりした表情になる。
基本的にこの部屋に居る人間は、一様に皆、面倒くさいことが嫌いなタイプである。
そして今日はその“面倒くさい事”が盛大に行われることになっていた。
皆の雰囲気にハルトはわけがわからない様子で、「あれ、皆さんどうしたんですか?」ときょとんとしている。
しかしまあ、ここでぐずったところで状況は変わらない。それも皆知っている。
だから三者三様に、顔を見合わせ苦笑を浮かべた。そしてうなずく。
「りょーかい。んじゃ、行きますかねー」イズミが椅子から立ち上がる。
「ウチほんま警備選んでよかったわー」とヤヨイが肩を竦めた。
「ヘマやらかさないでねミヤコ」ミクがにんまりした笑みでミヤコを見上げた。
「やめてよスーさんじゃあるまいし。」とミヤコはスーをチラ見。
「なんなのお前ホントいい加減泣くぞ!」ここでもいじられ役の護衛である。
そうして皆がドアに向かう中、ノアはその後ろ姿を見ていた。
いまだ戸惑ったような表情。
それもそうかと、ノアに気が付いたミヤコは立ち止まった。
他の皆が部屋を出ていく中で、ミヤコとノアは立ち止まって、瞳をぶつけた。
「……ノア。」ミヤコが呼ぶ。
「行こう。」
ノアは黙ってミヤコを見つめた。
ミヤコはなんと言ったらいいだろうかとしばし考え、けれど結局、いい案が浮かばずに。
だけど結局、これしかないんだろうと思った。


