ミヤコの褒め言葉はかなり貴重だ。が、笑いながら言われても有難味に欠ける。
スーは喜んでいいのか悩んだ末、実に微妙な笑みを浮かべたまま肩を落とした。
結局はこの護衛、こういう立場なのである。
そうやって、皆の顔合わせが済んだところへ。
「……あの、紅茶を、お持ちしましたっ」
空気を読んでずっとそこに居たのか、開けっ放しのドアの向こうで、アイが申し訳なさそうに声を上げた。
「おーありがとー」というイズミの拍子抜けするようなお礼を受け、ようやっとアイは「は、はいっ」とうなずいて部屋に入った。
皆が各々好き勝手にアイの淹れた紅茶を手に取って行く中、スーが呆然としたようにアイを見つめているのをミヤコは気が付いていた。
たしかにアイは可愛らしいので、見惚れてしまうのもわかる気がする。
が。
なるほどスーさんは、アイさんが好みらしい。
ミヤコは紅茶を傾けながら密かに微笑んだ。
それからしばらく、皆は部屋で好き好きにくつろぎながら談笑をしていた。
アイ以外みなラクサー国の面々だったが、ノアは始終リラックスした様子だった。
最初こそミヤコたちのやり取りを黙って眺め、少し笑う程度だったが、イズミとヤヨイが興味津々な様子で話しかけてから気遣いも消えたらしい。
この国とラクサー国の違いや、似ているところ。食べ物の話や人々の話。
「夜の広場すげー楽しそうだからさーうちもやるかミヤコー」というイズミの提案に「うちはうちで穏やかな夜っていう売りがあるからしない。」とミヤコは返す。
「騒ぎたくなったらこっち来ればいいじゃん。」と付け足してノアを見ると、「よければいつでも。」とノアはうなずいてみせた。
部屋はしばらく和やかな会話と、笑い声であふれていた。
話はつきない。この二日間を過ごした中で、誰もが話したいことは山ほどある。
それだけいろいろあった。いろいろあった二日間も、そろそろ終わる。
――バンッ! と。
ドアが勢いよく開いた。


