ミヤコはその時点で完全に諦めた。
もうどうにでもなれ。
「はあいミヤコごきげんよう。」
「ごきげんようミクさん。目が据わってますわよ。」
「あらそう? どこぞのお姫様が勝手に国を抜け出してアタクシに多大な迷惑をかけたからじゃないかしら。」
「実にすまんかった。」
「そんな平謝りで許されるとでも思ってんのかオイコラミヤコテメェ。」
つかつかとミヤコへ歩み寄ってきたヤヨイの妹、そしてミヤコの悪友(親友ともいう)であるミクは、貼り付けたような笑みでミヤコを見据えた。
目が恐ろしい。どこぞの魔王より恐ろしいのではないかとミヤコは思う。
しかしミヤコはヤヨイからすでに話を聞いていた。
自分が護衛を撒いて逃げたあと、ことを伝えようと城に戻った護衛に偶然出くわしたミクが話を聞き、「それ、他の誰かにバラしたら承知しないわよ?」という末恐ろしい笑みを浮かべて護衛を脅し、城の皆に“ミヤコは自分の家に泊まっているから心配はいらない”と伝えて事を公にしなかったこと。
その後はミクもミヤコを探していたということ。
悪いことをしたな、と思わない方がおかしかった。
「……ごめんミクさん。あとありがとう。」
怒りのオーラをめらめらと背後に沸き上がらせるミクに、ミヤコは躊躇なく頭を下げた。
そのまましばらく頭を下げていたが、ミクは何も言わない。
こりゃそうとう怒ってるかな、とミヤコが顔を上げる、と。
「……うっ、」
わああああんっ!
という大声で泣き始めたミクが、ぎょっとしたミヤコにこれでもかという勢いで飛びついた。
ミヤコは慌ててそれを受け止める。なんだ、何が起きた。
ミクの涙がなんなのか、ミヤコはさっぱりわからなかった。とにかく、泣きながら抱きつくミクをなんとか宥めなければと思った。


