余談だが、ヤヨイはかなりの運動神経を持っている。
武器を使わず体術で、国一番の護衛をねじ伏せてしまうほどの強さらしい。ミヤコはヤヨイの戦闘を目の当たりにしたことがないので、真実のほどは定かでない。
そもそも、イズミがどこからどこまでを知っているのかと聞いてみれば、ヤツはほとんどすべてを知っていた。
ハルトとノアの事情や、ミヤコがノアと一緒にオウーイ国に居たことや、その後の展開までほぼすべてを把握していた。
それはそこかしこに潜入していたヤヨイの存在もあるが、イズミ本人の行動力でもある。
どうやらミヤコとノアが賊軍の集団と争いになった時も、実はどこかで見ていたらしいのだ。
話を聞いたミヤコが「なんで助けに来なかったし。」とふつふつ湧いてくる怒りを抑え込んで尋ねてみれば、「やーなんかミヤコが奮闘して困っている様を見てるのが楽しくてさー」などというクソ兄貴の代表と言えるほどの答えが返ってきたので危うく戻ってきた剣を抜くところだった。
そして最後の花火である。
あれはイズミが自白していた通り、大砲の弾を事前にこっそり花火とすり替えておいたようだ。
そんなことをしている暇があったらさっさと助けに来るかリーダー説き伏せとけよと本気で思ったミヤコである。
そういうわけで、イズミはほとんどを知っている。会話も知っているらしいのがミヤコにとって一番恐ろしい。一体どこまで聞いているのやら。
城に訪れた時、ハルトがこの国にイズミが居ると話していたことをもっと重要視するべきだったな、と今更ながら後悔の念が。
「あ、そういえばなあ」
もはや何度目になるかもわからない頭を抱えるという格好をしているミヤコに、ヤヨイはたった今思い出したように言った。
「ウチの妹も今日来るらしいで?」
「な、」
んだと。
がばっと顔を上げたミヤコは、しかしその言葉を最後まで言うことができなかった。
バンッ! と、イズミが閉めたはずのドアが再び乱暴に開き、たった今ヤヨイが話した、張本人が現れたからだった。
しかも、余計な者までついてきている。


