その夜、女王マリは自室で日記を書きました。

5歳の時から、十年間、続けている日記でした。

毎日、ほんのひとことずつ。

けれど、欠かしたことはありません。

読むのは苦手でしたが、書くのは得意でした。


「ふしぎな方だった。

 なにもかもがふしぎ。

 雰囲気も、言葉遣いも。」


暗がりの中、手探りで日記を書きながら、

オアシスで会った彼が言ったことを思い出し、

自然と笑みがこぼれました。


「気が向いたら明日も来ようかな。

 俺のこと苦手だったら、しばらくここ避けたほうがいいっスよ。

 けど、俺はまた逢いたいな。

 それまでに、名前、考えときますね。ではごきげんよ。」


次の日の日記は、もっと長いものになりました。


「二度目に会った時、あのひとはわたしを〝若葉〟と呼んだ。

何故かはわからない。それがどういう意味なのかも。

けれど、心地良かった。

あんなに優しく呼ばれたのは、初めてだった。

恐れも蔑みもなかった。

最初会った時は、ほんの一瞬だけ揺らいだ気がしたけれど。

感情は、声に出る。」