「あ……。すいません、驚かせて。怪しい者じゃないっスよ。」


女王マリの様子に、きっと向こうも驚いたのでしょう。

最初はしどろもどろでした。

けれど、見ず知らずの少女があまりに怯えていたので、

怪しい者じゃないと一刻も早く知らせたくて、

たちまち饒舌になりました。


「いや~ここ地元じゃないもんで、うっかりひからびそうになっちまって。

このオアシスに来て、ついさっき命拾いしたんスけど、

なんだか盗み聞きみたいになっちゃって。

いるって知らせといたほうがいいのかな~、なんて。」


話し方とは正反対に、

彼は、よく響く落ち着いた良い声をしていました。

ですからマリも少しだけ落ち着きを取り戻しました。


「……お名前を。」


「ああ。俺は直(ひた)、っていいます。」


「ヒタ……? 変わった名前ですね。」


「どう言ったらいいんかなあ……。

俺の故郷では、『ひたすら』とか『いちず』って意味です。

ところで、いきなりですけど、あなたを好き勝手に、名前、つけてもいいですか?」


「……ええっ?」


名前をつける? まだこちらの名前さえも尋ねていないのに?


「いやぁ~俺、ほんっとよそ者なんで。

 異国を旅してるうちに、故郷が懐かしくなっちゃって、

 故郷の言葉を色んなモンにつけて歩いてるんですよ。」


それは……

淋しいのでしょうか。

マリはほんの少しだけ、この人が自分と似ているような気がしました。


「変わった方ですね。」


「よく言われます。でもつけて歩いてんのは名前だけじゃないっスよ。」


「他にも、何か?」


朗々と。

楽器もなしに、彼は歌いはじめました。