とある国の、とある街。

この物語の主人公はマリといいます。

もっとも、マリは自分でこの名を気に入ってはいませんでした。

なぜなら、誰も呼んではくれないのです。

青年はリュートをつまびきながら語り始めました。

「マリは、まだ成人して間もない砂漠の女王。

女王というのは孤独な仕事だ。

背負っているものが大きすぎる。

その重みに耐えきれなくなると、

マリはひとりでオアシスに来た。」



「ふぅ……

ずっとここにいられたら、

どんなに良いでしょうね……」

女王マリの口から、独り言がこぼれます。

誰の返事も期待できないかわりに、

言葉に重みもいりません。

オアシスは、マリにとってたったひとつの心のよりどころ。

誰の返事も期待できないかわりに、

物憂げでも、その気持ちを隠さずにすむのでした。

ところが。

「そうっスね~。」

あろうことか、返事が返ってきてしまいました。

「だれです!?」