「彼のひたいにはうろこのような痣があった。

 今までも、色んな国で誰かに会うたび、

 会って話をするたびに、

 身体の至る所にこの痣ができた。

 腕の痣も、

 首筋の痣も、

 二つ以上になったことはなく、
 
 そしてその国を出れば消えていった。


 前髪で隠れているけれど、

 若葉にも見えないけれど、

 自分を騙すことはできない。

 最初、若葉に会った時、あらたにできた痣は額にあった。

 ひとつだった。

 二度目に会った時、

 ふたつに増えた。

 次に会えば三つ目の痣ができるだろう。

 ぎりぎりだ。

 四つ目はない。

 四度目に会ってしまった時、

 それは、自分がアイツと同じバケモノになる時。

 あの毒蛇と交わした契約は死ぬまで消えない。

 故郷の家族や友を守るために交わした、魔神との契約は。」





「若葉!」


「ヒタ?一体何が……」


息を切らしてオアシスにかけつけた彼は、

心臓が破れそうでしたが、一気に喋りました。

彼はとても焦っていました。


「ここは余りにも豊かで、美しすぎた。

 今やどの国もここを欲しがっている。

 わかりきったことだ。

 争いが起きればきっと、このオアシスも戦場になる。

 そうしたらもう二度と、こんな美しい場所にはもどらない。

 砂漠の者なら誰だって、この緑に憧れをいだくだろう。

 そして、この〝地上の楽園〟を だめにしてしまう。」


女王マリはうつむきました。

だめにしたのは、わたし。

この国を、この小さなオアシスでさえ、

守れなかったのは、わたしのせい。


彼は、そんな女王マリの両肩をつかみました。


「あんた女王なんだろ。

 役立たず呼ばわりの女王なんだろ。

 さっき聞いたよ。村の奴らが話してんの。

 背負わせるだけ背負わせといて、この国では一番除け者だってな!

 はっきり言ってこの国はもうだめだ。逃げろ。早く!」