「沖田に解けて、俺に解けないとは……」
高杉がわざとらしく肩を震わせている。
「おい、コラ。聞き捨てならねぇぞ。」
「御免、総司。僕もそう思ったよ。」
吉田も肩を震わせながら高杉に同感している。
「私もだ。すまない、沖田くん。」
そんな二人を見た桂も総司に憐れみの視線を向けている。
奏はまさか自分の小ネタがこんな事態を巻き起こすとは想像だにせず慌てて三人に駆け寄ろうとする。
が、吉田に制された。
よくよく見ると首垂れているため判りにくいが口パクで「合わせろ」と言っている。
成程。
このあたりは平成のノリと同じなのだな。
彼らの意図を掴んだ奏は両手で顔を覆い、
「面目ない、総司。私もだ。」
高杉たちには何の反応も示さなかった総司だが、奏まで同じリアクションをしたことに目を剥く。
「何だ!?お前ら、そんなに俺は馬鹿に見えるのか!?」
「うん。沖田総司は近藤さんや土方さんのことにならないと至極まともに頭が回らないもんだと。」
「違う!いや、そうだが!」
どっちだ。
喉元まで出かかった言葉を四人は笑いを堪えながら飲み込む。
堪える為に口を手で押さえながら必死に俯いた。
その光景に総司の思考は益々マイナス方向に転がったらしく、
「どうせ、私は馬鹿ですよ。すみません、証明できてしまって。」
と体育座りしてしまった。
言葉遣いが変わったあたり、結構ショックだったらしい。
体育座りの総司に四人はとうとう吹き出した。
「あはははは!これが壬生浪士組一の剣豪か!!」
「これが本当の幕府の犬だよ!膝まで抱えて、可愛いね!!」
バンバンと畳を叩き、涙を浮かべながら大笑いする四人。
桂と高杉に至っては笑いすぎて、最早声すら出ていない。
うっかり、過呼吸になりそうな勢いだ。
漸く、総司は自分が 騙された ことに気づいた。
「謀ったな!!お前ら!」
しかし、時既に遅し。
四人の上戸はなかなか止まらない。
「やばい。横隔膜つった。」
奏は胸と腹の真ん中あたりを押さえながら笑うのを止めた。
横隔膜がつるなんて、一体どれだけ笑ったんだろう?
それだけ先程の総司は面白すぎた。
「 おうかくまく とは何だ?」
高杉が聞き慣れぬ単語を訊ねる。
「胸と腹の境にある筋肉の膜のこと。呼吸運動をあずかるだけでなく排泄、嘔吐の時にもはたらく重要な膜だ。ちなみにこれの痙攣がしゃっくりだよ。驚くとしゃっくりは止まるというのはその為だ。」
「ははぁ。驚くと呼吸は一時止まる。 おうかくまく なるものは呼吸運動をあずかる故、呼吸が止まれば おうかくまく も一時止まる。それでしゃっくりも止まるってぇ訳か。」
「相変わらず、頭の回転が早いな、総司は。頭が下がるよ。」
「大袈裟だな。」
と言いつつも嬉しさを隠せてない総司は本当に可愛い。
男性に可愛いなんて失礼、ましてや相手は武士なのにと判っていても、そう思わずにはいられない。
これが本当の幕府の犬
さっきの吉田の言葉に共感できてしまった。
総司が尻尾を振って喜びを露にする犬にしか見えない。
