総司は通りをずんずんと歩いていく。
彼の纏うオーラが何となく黒く見えるのは気のせいだと思いたい。
二人とも顔が整っている為(本人たちは全く気にしていないのだが)、只でさえ注目を集めているのに、手を繋いでいる。
忘れべからず。
奏は今男装をしている。
女性の格好をしていれば、美男美女カップルだが、そのせいで道行く人からは完全にソッチの道の人と思われている。
総司はある店の前で立ち止まった。
奏は看板を見たが、相変わらず読めない。
総司の真意が判らず、ぼけっとしていた奏だが「入るぞ。」と総司に強く手を引かれる。
店に入った途端、甘ったるい匂いが鼻をつく。
すると、一人の若い娘が駆けてきた。
「先程のお武家はん!ほんまに来てくださったんですね!先程は失礼致しました。どうぞ、お好きな席にお掛けになってください。」
ん?先程と言ったか、この娘。
こいつは一体さっきまで何をしていたんだ?
奏はちらりと総司を見た。
繋がれた手は店に入った瞬間に外されていた。
総司は知らん顔して明後日の方向を見ながら口笛を吹いている。
あまりに白々しいその態度は誰が見ても疚しい事があったのだと判る。
嘘が下手すぎる総司に思わず吹き出しそうになるのを奏は凄まじい精神力で耐えた。
ここで吹き出せばまた色々難癖をつけられるのは明白である。
奏と総司は店の奥の席に机を挟んで向かい合って座っていた。
もうすぐ日が西に沈む時分。
時間帯が時間帯なだけに客は奏と総司を含め五人程だ。
机の上には甘味が所狭しと並んでいる。
奏自身、甘味は好きだが向かいに座る彼はそれを遥かに上回っていた。
その細い体の何処にそんなに入るんだというくらい、ブラックホールよろしく甘味を食べている。
無愛想な割には可愛い一面もあるんだなと奏は知らず知らずのうちに微笑んでいた。
「さて、」
一段落ついた総司が漸く口を開いた。
「奏は大馬鹿者だ。」
前言撤回。
さっき少しでも可愛いとか思った自分を奏は呪った。
