「……………風の噂ってやつです。」
苦し紛れの言い訳に彼らはそれ以上聞いてこなかった。
しん、となった空気に何か話題をと奏は必死に頭を回らせた。
「そういえば、どうして君は俺たちのことを知っていたんだ?」
高杉の問いに奏はどきりとした。
そういや、そうだなと吉田と桂も頷く。
これはチャンスではないか?
一か八かだが。
しかし、そうなるとかなり大掛かりなことになる。
今だって壬生浪士組の歯車を乱しているのに、彼らまで巻き込むか。
いや、むしろ彼らを巻き込まないと壬生浪士組はきっと救えない。
同じ国の人間同士が争っている限り滅び逝く武士たちを救うことは不可能だ。
根本的に引っくり返さないと戦は起こる。
上手くいけば後の世界大戦を防ぐことにも繋がるのではないか。
奏は決心した。
「それは私が壬生浪士組の隊士だからですよ。」
チャキンと鯉口をきる音がした。
「でも貴方たちをどうこうしようとは思っていません。その証拠に、ほら、丸腰でしょう。」
奏はおどけたように両手を広げた。
丸腰であるのは刀をまだ持っていないし、この三人に会うなんて思ってもいなかったからだし、この計画も行き当たりばったりだからであるのが本当の理由であるが、まさか正直に言えまい。
「そろそろ連れが戻ってくる頃合いですから鉢合わせしたくなければ、今のうちに逃げなさい。」
「連れとは?」
「沖田総司。」
三人は息を呑んだ。
彼の腕前はもう有名なようである。
「出来れば今度、個人的にお会いしたい。」
「壬生浪士組を裏切るのか?」
吉田が驚いたように言った。
「まさか。私は彼らが大好きだから裏切るつもりは毛ほどにもありません。」
「しかし、血気盛んな連中だ。俺の同志がもう何人も斬られている。バレたら君もただじゃ済まんだろう。」
「そうですね。切腹を申し付けられるかも。」
「ならば、何故危ない橋を渡るような真似をする?」
「私は個人的に知り合いに会うだけです。それが偶々高杉晋作と桂小五郎と吉田稔麿であるだけ。もし、それで私が斬られるならば、壬生浪士組はそれまでの集団であったということ。この期に及んで敵だ味方だなんて馬鹿らしいと思いませんか?皆、この国を守りたいと思う心は同じなのに。」
奏の言葉に三人はとうとう吹き出した。
「面白い。二日後、池田屋にて待つ。」
高杉は笑いを噛み殺しながら言った。
「承知!」
そして奏は各々と熱い握手を交わした。
