腰を抜かすとはまさにこのことである。
「出たぁっ!!」
奏は叫んだ。
少々ホラーっぽくなったが今は真っ昼間。
幽霊さんはまだ寝ている時間だ。
「誰だ、お前は。人の顔を見るなり失礼な奴だな。」
総司が迎えに来たと意気揚々と玄関に向かった奏だったが、そこにいたのは総司ではなかった。
背が小さく、散切り頭。
随分と長い刀を持っているが背が低いために先が地面につきそうだ。
その姿は子供が背伸びして帯刀しているようにしか見えない。
奏は平成でこの顔を幾度も見た。
もっとも本人も背が低いことを気にして立ち姿のものは一切残っていないが。
小中高生の歴史の教科書、あるいは資料集に必ず載っていると断言してもよいかもしれない。
「暴れ牛!!」
奏は地面にへたりつきながら暴れ牛こと、高杉晋作を指差した。
「重ね重ね失礼な奴だ。」
「どうしたんだ?晋作。」
彼の後ろから更に二人出てきた。
「ぎゃーーー!!逃げの小五郎!と誰?」
三人はコントのように前につんのめった。
「誰と聞く前に名乗るのが礼儀だろう。」
「道理だ。」
奏は立ち上がって深々と頭を下げた。
「無礼な振舞い、大変失礼した。私は沖田奏と申す。」
奏の丁寧な挨拶に男たちも慌てて頭を下げた。
「まぁ、知っていたようだが高杉晋作だ。」
「私は桂小五郎。」
「吉田稔麿。」
何なんだ、この豪華すぎる面子は!!
新撰組の敵にあたる彼らだが今は名を残すような偉人たちに会えた喜びの方が大いに勝っていた。
「握手!握手をお願いします!!」
奏は勢いよく右手を差し出した。
彼らはその右手を驚いたように見つめている。
桂が口を開いた。
「君は握手を知っているのか。異国の文化のはずだが、どういった経緯で?」
はい、墓穴。
奏は右手を差し出したポーズのまま固まった。
ハタから見れば滑稽である。
