「ついでに言うとね、沖田はんは奏はんは肌が白いから赤や黒の着物が映えるだろうって色まで注文しなさったのよー。よく奏はんのこと見ているんですね。」
あぁ、それはきっと……
「フネさんが期待しているような意味じゃないと思います。彼は上辺仲良くしているように見せているけど私のこと壬生浪士組に害を及ぼす者でないかと疑ってますから。」
奏は自嘲気味に笑った。
信用されていないというのは悲しいものだな。
ましてや、ずっと好きだった人に。
「それ嘘やと思いますよ。」
フネはありえないと首を横に振った。
「沖田はんを貶すわけではないけど、あの御方は本当に不器用でして。自分の気持ちに嘘をつけない、最も間者に向かなそうな方ですから。口でいくら嘘を並べても顔や行動にすぐ出るんですよ。」
血生臭いことに一切縁のない女性にここまで言われるなんて男としてどうなんだろうと思ったがフネはあくまで奏を励ますつもりで言っているだろうから黙っておいた。
すると、すぐ後ろで物音がした。
来客のようだ。
「いらっしゃいませ。」
フネが笑顔で挨拶する。
そういえば、昨日今日のゴタゴタでまともに京で普通に生活している人を見るのは初めてかもしれない。
フネも言ってしまえば壬生浪士組の関係者である。
奏は壬生浪士組や佐幕派、尊攘派関係のないこの時代を生きる町民と世間話でもしたいと、かねてから思っていた。
一体どんな人だろう。
奏はゆっくり振り返った。
