青い星〜Blue Star〜








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奏のカミングアウトにはじめのうちは半信半疑だったフネもあまりに現実味を帯びる奏の話に、
「何か困ったことがあったら、いつでも頼りなさい。男には言えない女の事情もあるでしょう。」
と心強い言葉をくれた。


彼らが頼りないというわけではない。

しかし、どんなに仲良くなろうが信じていようが性別を越えてまであまりにもぶっ飛んだ話は出来ない。

男は女の気持ちなんて一生判らないだろうし、逆もまたそうである。

そうでもなきゃ、離縁や痴話喧嘩などといった男女の仲違いが原因の言葉が生まれるはずがない。













奏はフネに様々な種類の反物を見せてもらっていた。



ここでも新たな発見があった。

着物は既製品で売られていないということである。

やはり、どうも平成のイメージが強すぎて着物といえば完成したものがデパートの婦人服売り場の一角にショーケースに飾ってあるという印象がある。

だから、幕末もそれを想像していたのに布だけが出てきて驚いた。
そんな奏の様子に気づいたフネは着物は新調するとき呉服屋で反物を買ってから仕立てるのだと教わった。


ここまで聞いて着物が相当高価な物であるのは想像に難くないだろう。

その上、平成のような大量生産でなく全て人の手で丁寧に作られていて手間がかかっている。


ちなみに着物を一着仕立てるのに必要な反物を買おうとなると銀6匁、平成の貨幣で言えば福沢諭吉さんが軽く吹き飛ぶ。

古着でも良いのに、と思ったが奏の考えを見透かしたかのように「武士には多少無理してでも示さなければならない形がある。」と力説された。


壬生浪士組は現在、タダ働きである。

それにも関わらず、いきなり現れた厄介者がいくら生活に必要とはいえ申し訳なかった。


フネの言う形とは見栄とどう違うのかと思ったが、話がこれ以上長くなるのは御免だと黙って聞いていた。










その間、すっかり意気投合した二人の会話は愚痴へと発展していた。




「それでね、総司の野郎が大衆浴場で見た私の体を大層なもんじゃないって。私の時代はさ、混浴じゃなくて男女分かれているのが普通だから慣れない混浴に色々参っていたのよ。そこにあの朴念仁は繊細さの欠片もない言葉を言い放って……」



「じゃあ、もしかしなくても沖田はんの左頬の手形は……」



「不届き者を成敗致しました。」



可笑しそうに笑うフネに奏は笑い事じゃないと口を尖らせた。




「愚痴に口を挟まれると苛立つのは承知の上で言うけど……これじゃあ、あまりにも沖田はんが不憫やわ。」




未だに笑い続けるフネに奏は疑問符が浮かぶ。




「さっき沖田はん出ていく前、私に何か言っていたの覚えてる?」



そういえば、何か耳打ちしていたな。
さして、興味もなかったが。




「ええ、覚えていますよ。」




「ほんまは内密に言われたんやけど、沖田はんは奏はんに袴だけでなく小袖用の反物も見立ててくれと頼まれたんよ。」




小袖とは名の通り、袖口の小さい着物のことだ。

近世以降庶民の小袖が発達し現在の着物の母体となっている。



袴ばかり着ていた奏は女性用の着物にはとことん疎かった。

小袖も初めて耳にした単語でピンとこなかった。




「すみません。小袖って何ですか?」



「小袖は女性用の着物のことよ。全く沖田はんも素直じゃないわ。」




漸くフネの笑いを理解した奏はひどく赤面した。