『いただきます!』
風呂に入り、さっぱりした壬生浪士組面々はやっとありつけた昼餉を物凄い勢いでかきこんでいた。
メニューは白米、味噌汁、焼き魚、漬物とシンプルなものだった。
作ったのは勿論奏だったが、同じく奏と昼餉を作った総司は未来の料理でなかったことに少し残念そうに箸をすすめていた。
しかし、そんな総司が目に入らぬほど奏はカルチャーショックを受けていた。
貧乏神、疫病神、が一度に襲ってきたような禍々しいオーラを纏っている。
「奏。おめぇ、一体どうしたんだ?大衆風呂に行ってから、ずっとその調子じゃねぇか。」
総司が心配そうに訊ねた。
すると、ゆっくりとした口調で奏は語り始めた。
「カルチャーショックというやつだよ、総司君。」
「かっ……かる?」
初めて聞く言葉に総司は困惑した。
いつもなら英語が判らない彼らの為に和訳するが、今はそれを忘れるほど奏は参っていた。
「今更だが大衆風呂って混浴なんだよな……」
溜め息とともに呟かれた言葉に隊士たちは顔を見合わせた。
大衆風呂が混浴なんて当たり前のことである。
ちゃんと男女分かれているところもあるが一般的には混浴であった。
150年後は男女分かれていることが一般的なんて彼らが知るよしもない。
奏としては不可抗力だったとはいえ見てしまったのだ。(何をとは皆さんの想像におまかせする。)
お父さんとお風呂が最後、以後男性と一切そういう経験がなかった奏にとっては衝撃的すぎたのだ。
そして、逆もまた然りである。
奏も『見られた』のだ。
この時代の大衆風呂はほとんどが混浴であることを知らなかったわけではないがいくら常識とは言っても始めから受け入れるのは無理があった。
「よもや、見られたことを気にしているのか?心配すんな。暗闇だからよく見えなかったがアンタが気にするほどアンタの体は大層なもんじゃなかったよ。それに見られたのはお互い様だ。」
からからと笑う総司に奏の怒りは頂点に達した。
奏は立ち上がると隣に座り未だ笑っている男の横っ面を平手打ちした。
頬を打つ小気味いい音が響く。
デリカシーのなさすぎる大男に同情する者は皆無であった。
