ゴトンと杯が畳に落ちる鈍い音が響く。
奏は俯いて全く動かない。
心配になって総司は奏の顔の前で手を振った。
「おーい。」
「………………」
「大丈夫か?」
「…………………」
「返事くらいしてくれ。」
「………………………」
反応する気配のない奏に総司は、悪ふざけが過ぎたかと反省する。
それにしても、ここまで酒に弱かったとは。
まだ一杯だ。
酒豪の総司にとって理解できなかった。
周りで見ていた連中も奏の様子にざわざわと騒ぎ出した。
「姐さん大丈夫か?」
「寝てんのか?」
「姐さん、ここまでひどい下戸だったとは。」
「沖田さんの誘いを渋っていたのも頷けるな。」
突然不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ふふふふふふふふふ………」
よく聞くと、それは奏のものだった。
奏の不気味な笑い声に先程まで騒がしかった広間は静まり返っていた。
そして、がばっと顔を上げた。
目が完全に据わっている。
「よく聞け、沖田総司!」
大声で総司を名指しする奏。
皆の視線が総司に集まる。
「聞いてるよ。」
それだけ大声ならな、という言葉は飲み込む。
「健康診断してやろう!」
「は?」
突然何を言い出すんだ、この女は。
立ち上がり総司に近づく奏。
嫌な予感しかしない総司はじりじりと後退するが、真後ろには壁があり逃げ場がない。
たらりと総司の額から冷や汗が落ちる。
奏の手つきが卑猥に見えるのは激しく気のせいだと思いたい。
トンと軽い音がした。
背中が壁にぶつかったのだ。
それを見た奏の瞳が肉食獣よろしく、キラリと怪しく光る。
あ、と思ったときには遅かった。
奏が勢いよく飛び込んできて、総司は壁に頭をぶつけた。
そのまま横に引き倒される。
馬乗りになった奏は総司の着物の袷を開いた。
『きゃーーー!』
周りの連中は助ける気がないらしい。
ふざけて女のような悲鳴を上げる始末だ。
悲鳴を上げてぇのは、こっちだ!
総司は心の中で毒づいた。
そんな総司の心の声が届くはずもなく、むしろ膳を避難させて場所を空けたりと奏の方に協力的である。
そうこうしている間に変に真面目でさっさと振り払えば助かるのに、自分が酒を飲ませた手前そんなことをする訳にいかないと、されるがままになっていた総司の髪紐が解かれた。
「綺麗な黒髪だな。」
うっとりと総司の髪を梳く奏。
最早、変態である。
