「異国の言葉は判らねぇが、懐かしく感じられるいい歌だなぁ。」
総司の感想に皆、うんうんと頷く。
「私もこの歌大好きなんだ。気に入ってもらえて嬉しいよ。ところで総司。私ばかり芸を披露しては公平でないだろう。総司も何かやれよ。」
奏の言葉に総司は不敵に笑った。
どうやら、この流れから自分もフラれるだろうと既にネタを用意していたようだ。
「俺ぁ、謎かけが得意だ。」
「へぇ!私、そういう言葉遊びの類いは大好きだ。」
「じゃあ、お題をくれ。即興だ。」
「そうだなぁ……」
こんなに自信満々なんだ。
降参する無愛想男を見たくて、やりにくそうなお題を考える。
「よし!じゃあ『忍者』!」
「ととのいました!」
「嘘!?」
試衛館の面々は心なしかニヤニヤしている。
奏は総司を侮りすぎたようだ。
「忍者と掛けまして墓参りと解きます。」
「その心は!」
「どちらもしのび(忍·偲び)の心が大切です。」
「上手い!」
総司の腕前に奏は感服した。
もっと聞きたいと次のお題を考える。
「じゃあ奥様方の井戸端会議!」
流石にこんな微妙すぎるお題は無理だろう。
奏は内心ほくそ笑んだ。
「ととのいました!」
「嘘!?」
結局さっきと同じくらいの速さで返される。
「奥様方の井戸端会議と掛けまして腹心の友とときます。」
「その心は!」
「うちあけて(家空けて·打ち明けて)話します。」
「すごい!」
更に興奮する奏。
子供のようにはしゃぐ奏に総司は微笑んだ。
「じゃあ、お酒!」
「ととのいました!」
「嘘!?」
「酒と掛けまして煩い奴と解きます。」
「その心は!」
「どちらもつまみ出して欲しいです。」
「じゃあ、信長公!」
「ととのいました。」
「嘘!?」
「信長公と掛けまして孔雀と解きます。」
「その心は!」
「どちらもおだけ(織田家·尾だけ)を大きくします。」
「本物だ!アンタは本物だよ、総司!」
「あぁ……ありがとう。」
どうやら嬉しかったり興奮したりすると抱きつく癖があるらしい。
奏は総司に抱きついた。
平成では仲の良い男女がノリやその場の雰囲気で抱き締め合うとか珍しいことではないが、ここは幕末。
平成とは文化も考え方も違う。
この時代において女性とは慎ましくおしとやかなものである。
ましてや、奏のような行動をとるなんてありえないだろう。
