歌い終わり、「どうだ!」という意を込めて総司を見た。
「え、何だ、その顔は。そんなに下手だったか?」
綺麗な二重の瞳をかっ開いている総司のお猪口から酒がこぼれている。
斜めに傾いているから当然なのだが、総司はそれに気づいていないかのように微動だにしない。
「うおっ!」
見ると、さっきまで酒を飲んでいた者や寝ていた者まで皆一気に酔いでも醒めたかのように、奏に注目していた。
「天晴れ!」
総司は満面の笑みで奏に抱きついてきた。
「ぎゃーーー!!」
おなごらしからぬ、猫が潰れたような声を出す奏に些か呆れつつも総司は奏を抱き締める力を弱めなかった。
「俺たちの殆どが江戸生まれだから、その歌にしてくれたのか?」
「まぁな。隅田川なら馴染みがあるだろうと思って。」
「変わった節だが頗る気に入った!他にはないか?」
ただのおふざけ程度のフリだと思っていた奏はここまで喜んでくれるとは予想外であった。
「そうよな。では総司にお応えして、もう一曲。堂島孝平さんという方が歌った森雪之丞さん作詞、堂島孝平さん作曲の『葛飾ラプソディー』だ。」
『らぷそでぃ?』
聞き慣れぬ横文字に一同首をかしげる。
「ラプソディーとは音楽の種類のひとつで自由な形で節を展開していく器楽曲のことです。では、もう一曲お付き合いください。」
