勝負は直ちについた。
カラン、カランと木刀が床に落ちる乾いた音が響く。
奏は総司を壁に突き付け木刀を首元に当てていた。
その目は明らかに総司を敵とみなしていて、ぎらぎらと睨みつけている。
「参りました………」
道場にいた者はまさか総司から、その言葉を聞くと思っていなかった。
壬生浪士組隊士でで総司の右に出る者など皆無に等しいからだ。
その総司がおなごに全く歯が立たなかった。
その上、防戦一方だった総司は息が上がっているのに、奏は息切れすらしていないのだ。
「動きが遅い。無駄な動きが多い。だから体力を使う。故に持久力がもたない。元々持久力ないのかもしれないけど。気づいてるか知らないが、疲れてくると肩に力入る癖があるよ。だから余計消耗が激しい。あと油断しすぎ。腕が立つからって御高くとまってると寝首かかれるよ。」
奏は木刀を下ろすと未だ呆然としている総司にそう言い背を向けた。
奏の言葉に総司ははっとしたように「今しがた刀を交えた敵に背を向けるなんて言語道断!後ろから私が斬りかかったらどうするつもりです!?」と木刀を拾い上げると奏の背中に向けた。
「これが本当に尊攘派であれば私は決して背を向けない。貴方が“沖田総司”だから。見ず知らずの私を面倒を見て、私の気にしている間抜け話を笑い飛ばして笑い話にしてくれて、終始私に安心させようと笑顔を向けて、壬生浪士組の為に私に刀を向ける貴方がそんな汚い真似は絶対にしない。」
そこまで言い切って「と信じている。」と振り返り優しく微笑んだ。
「信じるって貴女……私は人間です。嘘をつきますし、貴女を利用するかもしれませんよ。」
「私は貴方を信じると決めた。それで利用されるならば本望であるし、たとえ裏切られたとしても、それは貴方を信じた私の責任だ。貴方が気に病むことじゃない。それに、わざわざそう言ってくれるなんて貴方は十分優しい信頼がおける御人だ。」
あぁ、いい女だな。
道場にいた者は皆素直にそう思った。
「これは総司だけでないけど宣言する。私は確かに女だ。だが心は武士(おとこ)だ。ここに入隊して皆と戦いたいと思う。それは、この仕事をなめてるとか興味本位とかじゃなくて、私が仲間を信じ仲間のために命をかける壬生浪士組という真の武士に惚れたからだ。」
奏は近藤と土方の前まで歩み寄ると三つ指をつき、これでもかというくらい頭を下げた。
「武州橘樹郡、天然理心流沖田奏。この身は壬生浪士組の為に。正式に“隊士としての”入隊を認めていただきたい。」
