総司は驚いた。
悪戯好きな子供のように微笑む奏に。
自分と瓜二つの構えをする奏に。
平晴眼は天然理心流の基本の構えなのだが総司には独特の癖があり、江戸にいた頃はよく近藤に注意されていた。
本当に奏さんは面白いな。
総司は本能で察知していた。
彼女は強い。
総司は一介の剣客として奏に強い好奇心を抱いていた。
強い相手と戦える、ただそれだけだった。
「始め!」
土方が言うや否や、奏は物凄い速さで間合いを詰めた。
そしてそのまま首を狙う。
総司はそれをギリギリで躱した。
奏は手を引くと、猛攻を加える。
「すげぇ……」
土方は思わず感嘆の声を洩らした。
気配が感じられないような流れるような動き。
次の攻撃に転じる速さ。
木刀がぶつかり合う音で判る一撃一撃の重み。
土方はちらりと近藤を見た。
が、すぐに見なきゃ良かったと後悔する。
近藤は局長の威厳は何処へやら、ポカンと口を開けて仕合に見入っていた。
