道場にいた者は皆、目を疑った。
無理もない。
あの鬼副長が声を上げて大笑いしているからだ。
「その意気や良し!!」
土方は奏がいる方へ歩いてくると奏の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ちょっと!髪が乱れる!!」
奏の抗議に耳を傾ける気がないのか手を止める気配がない土方に奏は諦めたように溜め息をつくと、されるがままになった。
奏より背が2、3㎝低い土方が自分より背が高い人間を撫でるのは少し間抜けに見えるがご愛嬌だ。
「土方さん、お褒めいただき光栄ですが、そろそろ総司との仕合を……」
いい加減うんざりしてきた奏は苛立ちをこめて言えば、悪いと土方はおとなしく引き下がった。
「土方さんに気に入られたようですね。かく言う私も相当貴女を気に入ってますが。」
「そりゃどうも。」
奏と総司は道場の中央で向き合った。
静寂が辺りを包む。
奏はその研ぎ澄まされたような独特の雰囲気が大好きだった。
まるでこの世界に自分と目の前の相手しかいないような。
相手もそれは同じなのか、にんまりと唇が弧を描いた。
「審判は私、土方が務める。」
土方の凛とした声が妙に心地よく耳に入る。
あぁ……
私はあの 沖田総司 と為合うのか。
平静を装っていても心中はひどく興奮していた。
無理もない。
平成の世で何度も会いたいと焦がれてやまなかった相手なのだから。
それと同時に平成という平和な時代で築き上げた自分の力が幕末において、どこまで通用するのか量ろうとしていた。
「両者構え……」
総司は平晴眼に構えた。
晴眼とは剣の切っ先を相手の眼に向ける中段の構えだ。
平というのは更にそれを横に寝かせるように構えるのである。
これによって肋骨の隙間から心臓を突けるのである。
………って、あいつ本当に手加減なしだな!
仮にもおなごに!
いや、手加減されたら、それはそれで怒るけど!
逆にここまで女扱いされないと最早清々しいというか、かえって嬉しくなってくる。
沖田さんは私がどういうタイプの人間かもう見抜いたのかな?
それとも、ただ普通に構えているだけなのかな?
奏はにっこりと笑うと総司と同じく平晴眼に構えた。
全く彼と同じ構えに。
