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道場では何処から噂を聞きつけたのか、たくさんの隊士たちが集まった。
“あの沖田殿とおなごが為合うらしい”
“奇妙な服に総髪で”
“なんでも男のような体格らしい”
“沖田殿は美しい。そんな獣のようなおなごと戦うなんて彼の操が……!”
所詮噂。
人伝に捻れ捻れ、挙げ句の果てに獣呼ばわりである。
確かに身長170㎝ちょいある奏は平成でも高い方。
実は幕末というのは男女共に最も平均身長が低かった時期で男性でも160㎝以上あれば高いと言われていたくらいだ。
だからといって獣とは心外である。
陰口をたたくくらいなら直接はっきり言えば良いのにというのが奏の本音だ。
『男のくせに』
江戸時代だから言える言葉である。
平成の世でそんなこと言えばセクハラだと訴えられるに違いない。
そんなことを思いながら奏は簡単にストレッチをする。
スーツの為、若干動きにくいが仕方あるまい。
「奏さん、木刀と竹刀どちらが良いですか?」
「木刀で。」
「防具は?」
「要りません。」
木刀で防具なしに自分に挑もうとする奏に総司は嬉しそうに目を細めた。
奏の真意を汲み取ったようだ。
だが周りはそうはいかなかったらしい。
若い隊士が激昂して持っていた竹刀を床に叩きつけた。
「貴様!黙って聞いていれば、女の分際で生意気な!!身の程を弁えろ!!」
こんなことアメリカで言ったら何とか委員会とかに蹴っ飛ばされそうなんて思いながら奏は静かに答えた。
「ならば、貴方は実践において、そんなお綺麗な剣を振るうのですか?尊攘派は此方を殺す気で向かってくるのに動きにくい防具を身につけて?」
文句なしの正論に言葉に詰まった隊士に奏は更に畳み掛ける。
「それに沖田さんは私に手合わせしましょうでなく為合いましょうと言ったんです。そう言った相手に悠長に安全の為に防具身につけて木刀よりも軽くて痛くない竹刀で戦うなんて、それこそ貴殿方が尊敬する沖田さんに失礼ではありませんか?」
若い隊士はとうとう俯いてしまった。
ちょっと言い過ぎたかなとフォローしようとした時豪快な笑い声が響いた。
