ぎぃ―…

静かな廊下に僕が動かす車椅子の音だけが響く。

ここはそれなりに有名な病院。
僕は幼い頃から心臓が弱くていろいろな病院で入退院を繰り返している。
今年で14才になった僕は看護婦さんの言うことを素直にきいてベッドで寝ていることに嫌気がさしはじめていた。
だからこうして動ける日は病院内を探索する事にしている。
いままでの病院は動き回るたびに注意ばかりされてきたけど、この病院ではある程度なら体がなまってしまうから動いてもいいといわれていた。病院内ならのはなしだけど。
外の世界にでて自由に走り回りたいと思ったこともあったけど、周りに迷惑をかけてまで行きたいとはおもわないし、ただでさえ僕は嫌われ者だ。これ以上迷惑はかけられない。
僕の家は代々続く旅館をしていて僕はその跡取りなるはずだった。けれど、生まれてきた僕はこのありさま。跡取りの存在を心待ちにしていた家族は相当がっかりしたらしい。
しかも、難産だったらしく母さんは僕の命と引き換えにこの世を去った。
愛する妻をを失い、息子は役にたたない。父さんはやけになって僕をいろいろな病院に連れて行った。けれど、見舞いに来ることは一度もない。いつもお手伝いさんが必要なものを揃えてくれるから不自由はしてないけど。
僕を見るのが辛いのだろう。
僕の顔は死んだ母さんそっくりだと母さんの写真と鏡を見て知った。
寂しいと思ったことがないと言ったら嘘になるが、14年間の月日の間に慣れてしまった。

そしてひまを持て余したぼくは今日も病院探索をしているわけだ。

今日はちょっと変わった場所にきている。

この病院には幽霊棟と呼ばれる病棟がある。
その病棟は、一度はいるともう出てこられないと言われている。つまり、死んでしまうと言うこと。そして、死んだ霊たちは生きている人間を呪い殺すという。しかし、この病棟は実際は末期患者のうち残りを静かに過ごしたい患者のためにつくられたらしい。この病院はほとんどの患者が子ども。おそらく、看護婦か医師の誰かこの病棟の患者を気遣い静かな環境をつくるため流したデマだろう。
もちろん、僕はそんな噂のためにきたんじゃない。
僕が用があるのはこの病棟の奥に隠された部屋…



   “X号室”