「媽媽(高位の人の呼称)、ご気分は……?」
「少し眩暈があるが、大したことない」
「吐気は?」
「だいぶ落ち着いた」
尚宮のチョンアは幼い頃からソウォンの世話をしている。
普段は活発で明るいソウォンだが、体調を崩しだすと床に伏せることもしばしば。
嬪宮という重責がある上、宮中にいる人々の目が常に付き纏う。
更には世継ぎを期待する声も高まり、ますます心労が絶えない日々が続いていた。
ここ数日、世子の誕生祝いの品を手作りするため、手の凝った刺繍を仕上げたばかり。
連日の疲れも溜まっている状態で、刺激臭の強い生薬を自らの手で練り上げる作業はかなりの重労働。
医官に任せればよいものを、自らの手で作ると聞かないソウォンに、チョンアは困り果てていた。
「お顔の色が優れません。少しお休みになられては?」
「大事ない。それより、組紐の材料を持って来てちょうだい」
「媽媽……」
幾ら諭しても聞かないソウォンに、完全にお手上げ状態。
世子は王の政務の補佐をするため、思政殿(王の政務の殿閣)の千秋殿(オンドルの執務室)で連日上奏文を処理している。
嬪宮に会うのは、夜遅くになってから。
それも、毎日ではない。
それほどまでに執務に追われているようだ。
香嚢袋に使う紐にあしらう組紐を結ぶため、ソウォンは布地に合う色を選んでいた、その時。
「っ……ぅっ……ッ……」
「媽媽っ!」
「………平気よ、少し吐気がしただけだから」
「…………ッ?!」
口元に手巾をあてるソウォンを見据え、チョンアの手が止まった。



