三月後。
すっかり暖かくなり、日中は汗ばむような初夏の陽気も感じられる五月下旬。
宮中でも衣替えの準備が行われていてる中、世子の生誕宴の準備も進んでいる。
「嬪宮様っ、そのような事は私共が致しますので」
「心を込めて自分の手でしたいのだ、構うでない。下がってなさい」
「ですが……」
世子の誕生祝いに自らの手で香嚢袋とそれに入れるものを作ろうと、薬房を訪れている。
袋の生地にも拘り、更にはその生地にも仕掛けを施すなど手の込み様。
通常は懐に入れたり腰に着けたりして花の香りを楽しむものだが、ソウォンが作っているそれは一味違う。
生地を二重に誂え、外生地は如何にもお洒落な刺繍が施された香嚢袋に見えるのだが、中は椿油で撥水加工を施し、更に中に解毒薬などを入れられるようにしたもの。
次期国王というその身分が、いつ何時命を襲われるか分からないからだ。
ソウォンは御医(王族の治療を担当する医官)に見守られながら、解毒薬の丸薬を練っている所。
刺激の強い薬もあれば、匂いがきつい薬もあり、綿布で口元を覆い、素手で練り上げていると。
「っ……んッ……」
「嬪宮様っ、残りは私共が致しますので、居所でお休み下さいませ」
日が経ったものであれば生薬の匂いも落ち着くが、練っている段階ではかなりの刺激臭があり、ソウォンはその匂いで吐気を催し、顔を背けた。
「誰か、嬪宮様をお連れしろ」
「承知しました」
御医が声を上げると、すぐ傍に待機している尚宮がソウォンの体を支えた。



