「恥じらう姿も……そそられるな」
「っ……」
酒の香りがヘスから漂って来る。
「酔われたのですか?」
「そなたにな」
「へ?……何をっ……」
まさか自分に酔うだなんて、と思ったソウォンは、ほんの少し顔をヘスの方へと傾けた、次の瞬間。
その瞬間を逃さなかったヘスは、ソウォンの体を反転させ、唇を塞いだ。
事前に人払いをしておいてあるお陰で、二人が会話していても誰も入って来る気配すらない。
湯に浮かべられた花の香りが湯気と共に漂い、お互いの肌をしっとりと濡らす。
「体が冷える。……入るぞ」
裸で湯浴みすることは殆どなく、下着姿で湯に浸かる。
湯には消毒効果や美肌効果がある薬湯にしてあるのが一般的で、それに体が温まるように無臭の酒が施されている。
ヘスはソウォンの手を取り、湯の中へと。
初めて共湯をする二人。
ぎこちない雰囲気を漂わせながらも、やはりそこはヘスが主導権を握る。
手で湯を掬い、ソウォンの肩先にかけながら、そっと肌を撫でて……。
少し熱めに用意させておいたこともあり、みるみるうちにソウォンの肌の色が桃色へと色づき始めた。
「ソウォン、覚えているか?」
「………はい?」
「初めてそなたと会った日のことを」
「はい、覚えております」
「あの日はお忍びで市場へと出向ていたのだが、何故あの時、使用人のような恰好をしていたのだ?」
「あれは……」
十年も前の日の出来事。
ソウォンがまだ九歳でヘスが十歳の時だ。



