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忠清南道の牙山にある温泉地の温陽に到着した一行。
行宮(王が外出した先での仮の居所)には既に従者らが到着していて、居所の掃除も済んでいる。
「荷解きが終わったら食事に」
「承知しました」
ヘスが尚宮に指示を出すと、内官や尚宮達が一斉に動き始めた。
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松の実粥(貧血予防、胃の粘膜を保護する役割)、エタン(ヨモギ団子をキジ肉などと一緒に煮込んだスープ:ビタミン豊富)、蓮根の肉詰め(冷え性予防)、海老の蒸し料理(骨粗鬆症予防)、たこの辛炒め、鶏肉じゃが等。
食べることが大好きなソウォンのために、色んな種類の料理を少量ずつ用意するように伝えてある。
膳に並ぶ料理を前に、久しぶりにソウォンの嬉しそうな表情を見ることが出来た。
「好きなだけ食べていいぞ」
「本当ですか?」
「あぁ」
宮中では、礼儀作法もさることながら、王族としての気品を保たねばならず。
腹八分目どころか、四分目以下くらいに留めるのが美徳的な考え。
だからこそ、茶を小まめに嗜む文化があるのだが、その習慣が未だに慣れないようで…。
王宮を離れて、ソウォンの好物を好きなだけ食べさせてやりたかった。
もちろん、効能があるものもこっそりと忍ばせてあるのは言うまでも無い。
茶を淹れるチョンアに目配せし、耳打ちする。
「鍼は打ったか?」
「はい」
「亥時頃(午後九時から十一時頃)になったら散策した後に湯浴みするゆえ、準備を頼む」
「承知しました」



