数分我慢してみた。
けど、何一つ変わらず。
ダメだ。
私の方が限界らしい。
無言の圧力とも言えるこの状況を、ただただじっと待つだなんて無理。
彼を見つめていた私は、体ごと向きを変えて彼に向き合う。
「郁さん」
「ん?」
「このままずっと黙ってるなら、東京湾に突き落としますよ」
「は?………フフフッ、そう来たか」
「だって……」
郁さん、分かってるなら早いとこ言ってしまいましょうよ?!
待つ方の身にもなって下さい。
郁さんは楽しそうにぎゅっと抱き締める。
そうじゃないってばっ!
抱き締めて誤魔化すのはダメなんですよ?
分かってるかなぁ……。
彼の鼓動はいつも通り。
特段に早まってる様子は見受けられない。
こっちはあなたからのメールを貰ってからずっとそわそわして、鼓動も不規則気味だってのに。
視線を持ち上げると、彼はゆっくりと口元を降下させ、私の耳元にそっと囁いた。
「プロポーズの言葉は何て言って欲しいんだ?」
「へ?」
意味わかんないっ!
そんなこと言う人いるの?!
何て言って欲しいかだなんて……。
鬼畜すぎる。
手に負えない。
「あ、……泣くなって」
「だっ……て……ッ……」
自然と涙腺が崩壊した。
一生に一度しかないと思ってたのに。
こんな風に気持ちを弄ばれるだなんて想像もしてなくて。
彼に何て言い返していいのかすら分からない。
「ごめんって……」
優しく指先で涙を拭う彼。
だけど、そんなことをして欲しいわけじゃない。
唇をぎゅっと噛み締めた、その時。
「結婚記念日、いつにする?」
「…………へ?」



