自宅マンションのエントランス前に彼の車が停車した。
その車に乗り込むと、『定期運送用操縦士技能証明書』と書かれた免許証を見せてくれた。
「凄いですねっ!免許証ってこういうのなんだぁ」
「ライセンスなら他にも色々必要で、その都度発行されるのを乗務の度に携帯しないとならないよ」
「うわぁ~っ、それ聞いただけで頭痛くなりそう」
「彩葉だって色んな資格取ってるだろ。それと同じだよ」
「………そうですけど」
医師にも多様な資格が存在する。
専門分野も含め、無いに越したことない。
「夕食まだだよな?」
「はい」
「実家で食べることになってるから」
「えぇっ?!何で今言うんですか!!もうっ、どこかに寄って下さいっ!手ぶらじゃ行けないから」
「いいのに、気を遣わなくて」
「郁さんがよくてもっ!私の気が済まないんですっ!!」
何故毎回毎回、行く直前に言うかな。
さっきのメールを送ったタイミングで教えてくれてたら用意出来たのに。
「あ、そこのケーキ屋さんに寄って下さい!」
「ったく」
「ったくじゃありませんよ!言いたいのはこっちですから!」
この人は私を困らせる天才だよ。
先月お邪魔した時だなんて、お父様の誕生日とも知らず、ただの食事会かと思ったら……。
あーもう、思い出したくもない。
***
郁さんへの合格祝いは用意してあるけど、何が起きるか分からないのが財前流。
お母様もかなり変わった方だから、気を抜いたら痛い目に遭う。
先月のお父様の誕生日に伺った際には、海外のリゾート地のパンフレットを幾つか見せられて。
『ここが良さそうですね~』だなんて話が盛り上がって。
てっきりお母様がご旅行されるのかと思ったら、私名義の別荘を買うためだったらしい。
後から聞かされ肝を冷やしたのは言うまでもない。



