Special Edition


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「本部長、今日はそろそろ上がられた方が……」
「帰るなら帰っていいぞ」
「……本部長もご一緒に」
「俺もか?」
「はいっ」

珍しく酒井が食い下がって来た。
普段なら『では、お先に失礼します』で済むのに。

「彩葉に頼まれたのか?」
「………」

やっぱりな。
両親が仕事をセーブするように指示を出したのなら、もっと早い段階で声を掛けて来る。

「何て頼まれたんだ?」
「特には。早めに切り上げるようにしてくれと言われただけです」
「……そうか」
「上がられますか?」
「………ん」
「ありがとうございます」
「もう上がるから、先に上がっていいぞ」
「はい。お疲れ様でした」
「お疲れさん」

スマホを立ち上げ、彩葉にメールを打つ。
『今、仕事終わった』

パソコンの電源を落とし、ジャケットを羽織る。
すると、メールの受信を知らせる音が鳴った。
すぐさま確認すると、『お疲れ様です。気を付けて帰って下さいね』とだけ。

デートでもしませんか?
このあと時間がありますか?
今、〇〇にいます、的な内容で無いことにほんの少し驚く。

もしかしたら、まだ仕事をしてるのかもしれない。
当直ではないはずだが、緊急オペがあることもよくあるし。

『仕事が終わったら、連絡して』とだけ入力し、部屋を後にした。

駐車場に着いても返信がない所をみると、やっぱりまだ仕事をしてるらしい。
エンジンをかけ、自宅へと車を発進させた。