Special Edition


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「彩葉ちゃん、この間はお土産ありがとうねっ」
「いえいえ、大したものじゃなくて……」

料理教室に到着した私は、事前に振り替え希望をネットでしておいたお陰もあって、先輩の奥様と同じグループになっていた。

先々週にシンガポールの学会に出席した際に、ご所望のラッフルズホテルのカヤジャムを買って来たのだ。
濃厚な味がトーストに抜群に合うとかで、かなりお高めのジャムなんだけど、日ごろから先輩にお世話になってるから。

調理を終え、試食会中。

「葵さんは、どうやって先輩とのすれ違い生活を克服したんですか?」
「うーん、色々試したけど、やっぱり放置はよくないかなぁ」
「というと?」
「例え5分でも会うとか、電話ならテレビ電話で話すとか、何より『会いたい』の気持ちをちゃんと伝えないとダメだったかな」
「……そうなんですね」
「彩葉ちゃんも外科医だから時間は不規則でしょ。それプラス、操縦士の彼氏さんじゃ尚時間を合わせるのは大変なんじゃないの?」
「……はい」
「潤くんが言ってたけど、この間もドタキャンされたって?」
「……はい」
「一生懸命、ケーキ作ったのにね」
「………」

この料理教室でケーキを2種類作って、そのうちの一つをお土産にして彼に会いに行ったのに。
結局その日に会えなかった。

緊急オペが入ることも多々あり、それじゃなくても夜勤もあって時間が不規則なのに。
漸く時間が取れたとしても、彼のオフ時間と合う確率なんて、ほぼ奇跡に近い。

この1年半近く、ずっと我慢して来た。
だけど……。