ゆっくりと彼が近づく。
西洋の彫刻のような美しすぎる顔が視界いっぱいに。
何度このシーンを味わっても慣れない。
恥ずかしいと通り越して怖くなる。
どこにでもいそうな庶民の私の顔に幻滅するんじゃないかと。
ぎゅっと目を瞑って彼からのキスを待っていると。
「明日は7時に起こせよ」
聞こえたのは耳元に囁く彼の声。
だけど、甘い言葉でも何でもない、業務命令のようなセリフ。
はっと思い目を開けると、彼はソファーから立ち上がり
タブレットを手にして寝室へと言ってしまった。
……完全に怒らせてしまったらしい。
どうしよう。
最近仕事が忙しくてイチャイチャするの久しぶりだったのに。
何だか、ポカンと焦燥感に襲われる。
明日の朝食の準備を終え、寝室へ向かう足が重い。
寝室のドアを静かに開けると、当然照明は落ちてて。
ベッドとは反対側のダウンライトが付いてるだけ。
彼を起こさぬようにそ~っとベッドに入る。
特注のオーダーベッドは、4人で寝れるほどの大きさ。
ベッドの大きさが恨めしい。
手を伸ばしても彼に届かないじゃない。
分かってる。
喧嘩は宵越しじゃダメだってことくらい。
勇気を出して、背を向けて寝ている彼に背後から抱きつく。
「ごめんなさい」
「………」
寝ているのか、返事がない。
不安になる。
彼にだけは嫌われたくない。
「……嫌いにならないで下さい」



