俺の胸に寄り添う杏花。
彼女の髪からシャンプーのいい匂いがする。
こうして彼女を抱き締める度、思う事がある。
こんな風に俺に寄り添い抱きしめる事が出来るのは
………あと、どれくらいだろうか?
人間、歳を取れば必然的に遠ざかる距離。
愛し合っていた夫婦であっても
死ぬ間際までこうして抱き合う事は無いだろう。
40歳くらいまでだろうか?
それとも、50歳くらいまでだろうか?
毎日抱いても飽き足りないと俺が思っても
相手が同じ事を思っているとは限らない。
現に、彼女は俺以外にそういう存在が出来始めているらしいから。
夫としては断固として排除したい所だ。
俺は抱きつく彼女の身体をきつく抱きしめ返した。
そんな俺の行動が腑に落ちないのか、
「要、………どうしたの?」
俺を見上げるように大きな瞳が俺を捕らえる。
「…………何となく」
「……何となくって?」
「いいから、黙って抱かれてろ」
今は変に詮索して欲しくない。
つい口から本音が出てしまいそうになる。
自分で自分の首は絞めたくなくて………。



