届け!

「おまえっ…」




少年は、必死に
涙を落とさないようにと気をつけながら、
小学生とは思えないほどに鋭いその瞳で
子犬を見下ろした。




「おまえっ、すていぬなのか…!?」




いくら小学生でも、この状況の意味はわかった。




少年は、勢いよくしゃがみこんだ。




それを、子犬は黙って見上げている。




「うぇ…」




そこで、必死に堪えていた涙は溢れ出した。




雨にも負けないほどに涙を流しながら、
子犬に話しかけた。




「おまえっ、さみしいのか…!」




「ばかだ!こんなにさむいのに!」




「こんなに雨だってふってるのに!」




「おれはっ、シャツもズボンもジャンバーもきてるし!
でもおまえは毛があっても
なにもきてない!」




「こんなことするやつ、さいあくだ!」




悔しそうに叫びながら、
少年は自分のダウンのファスナーを、腹の位置まで下げて、
子犬を抱き上げ、その中に入れた。




そして、子犬が苦しくないくらいの高さまで
ファスナーを上げた。