「ここっす!ここが俺ん家っす!」




ほぉ、ここが賀川君の…
大きくも小さくもない普通の家。
だけど何となく、居心地の良さそうな家。




「もうよかったっすよー、親父とお袋いなくて。
あいつらいたらうるっせーし、
爽花さんを家に呼べなかったっす!」




親に向かって"あいつら"って、口が悪すぎだ。
あたしが言えたもんじゃないけどね。




あたしは女のくせに、女らしからぬ口調だったから。
まぁ、声が出なくなったのを良い機会に、口調を直そうとできるだけ心の中では普通にしゃべるようにはしてるけど。




「伊月の親父さんとお袋さん、すげぇ元気な人なんだ。
賑やかでおもしろいんだ。」




後ろにいた安西君が、こっそり教えてくれた。




賀川君は、
「ただいま帰ってきてやったぞ定春ー!」と
大きな声で言いながら玄関を開けて、中へ入っていく。




続いてあたしも中へ入ると、
「あ!」と、何かに気がついたような声を上げた賀川君が、
履いていたスリッパの音をスタスタ鳴らして駆け寄ってきた。




「すんません!スリッパっす!
俺のだけど、親父やお袋のよりは綺麗なはずなんで使ってください!」





賀川君が急いで脱いで、あたしの目の前に揃えたのは
スヌーピーのスリッパだった。