声が出ない代わりに、頭を下げる。




「そんな畏まらなくていいよ。」




そうは言われても、しゃべれないので頭を下げるしかどう返せばいいかわからない。




せっかく自己紹介してくれたのに無反応って失礼すぎるだろ。




安西君は、教室の真ん中で囲まれていたところから抜け出し、
あたしの目の前へやってきた。




…この子、人気あんのかな。




すんごい楽しそうに笑い合ってたっぽいし。
囲まれてたし。




「えっと…、しゃべれねぇんだよな…?
クラスの奴に聞いた。
なんか困ったこととかあったら言ってな?
声出なくても紙とか携帯では会話できんだろ?」




それに、コクンと頷くと
安西君は満足げに笑った。




や、優しいなコイツ。




「あ、でも別に困ったことがなくても
普通にしゃべりにきてな!」




や、やっぱり優しいわコイツ。




しかしクラスメイトたちの視線が強い。鋭い。
どうやらこの子はクラスの人気者らしい。




言っちゃ悪いがこんなにも地味なのに
カラフル集団に好かれるとは変わったことも起きるもんだ。




いや、でも好かれる理由はわかる。
こんだけ良い奴なんだ。
今初めて会ったあたしでも好きだと感じる。