転校生の定番である、窓際の一番後ろの席を手に入れたあたしは
そこに座って
教室を出て行く先生の背中を見つめた。




すると突然、
目の前に現れた人物に
思わず体がビクついた。




「ねぇ!泉さんだっけ?
あたし杏里(あんり)!よろしくね!」




ギャルだった。
あまりにも濃い化粧が怖くて一瞬動きが止まっていた。




すぐに我に返って、
携帯を取り出す。




"泉 爽花です。
よろしくね。"




打った文字を杏里ちゃんに見せれば、
ニコッと笑って返してくれた。




これは…友達、になったのか?




「でも珍しいねぇ、転校生なんて。
しかも成陽高校(こんなとこ)に。
なんで転校してきたの?」




そう聞かれて、途端に答えに迷った。




何て答えようか。




迷った挙句、
"引越し"と文字を打った。




普通なら
父さんの…、母さんが…、
っていう理由を考えるかもしれない。




でも、今のあたしには
その人たちを
父さん、母さんと
言葉に、文字にするには
まだ辛すぎた。