届け!

『っ何す……』




「ゆーずーるー!」




何するんだよ、と
今度は殴る勢いで怒鳴ろうとしたそのとき、
教室の前の扉に現れたのは姉ちゃん。




まだ、声が出ていたときの
中学3年の姉ちゃんが
1年の俺のクラスへやってきた。




それはそれは、もう能天気すぎる表情の姉ちゃんは、
俺を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。




「なぁ、あたし今日弁当家に忘れてさ!
金貸してくんね!?
財布も忘れちまっ…」




相変わらず女らしくねー。




…声が出なくなってからの今の姉ちゃんは
声が出ないのを良い機会だと、できるだけ言葉を直そうとしてるらしいけど、
このときの姉ちゃんの口調はめちゃくちゃだった。




きったない言葉をスラスラと吐き散らしながら、
俺の目の前にやってきて、そして足を止めた。




床に落ちている俺の弁当を見下ろして、
グイッと眉間にシワを寄せた姉ちゃんは
般若そのものの表情で省吾を睨み上げた。




いつも猛のことを
ヤクザ、魔王、悪魔、だと呼んでいる姉ちゃんも
なかなかの顔つきだった。




猛との血のつながりを、感じた。




でも、姉ちゃんは何かに耐えるように唇を噛むと
「…ちょっと君、あたしの友達が呼んでたよ。連れてってあげる。」
そう言って、半ば強引に省吾の腕を引っ張って教室を出て行った。




空気がしんと静まり返っていた。




でも、さっき
姉ちゃんが唇を噛んだとき、
きっと省吾を殴ったり蹴ったりしちゃいけないって我慢してたんだと思う。
その証拠に、出て行く際に
近くの机を蹴り飛ばしていた。