「今日はみんなに転校生を紹介したいと思います。
泉さん、どうぞ。」
教室の中から聞こえたその声を合図に、
あたしは目の前の扉を開いた。
こっちを見て優しく微笑んでいる、
言葉通りに優しそうな若い男の先生と、
見回せばそれぞれと目が合う、クラスの子たち。
興味津々なキラキラした視線をたくさん集めながら、
あたしは教卓の横に立った。
先生は、白いチョークで黒板に大きく
"泉 爽花"
と書いて、体を前に向き直した。
「転校生の
泉 爽花(いずみ さやか)さんです。
残念ながら、泉さんは声が出ないそうで、
本人からの自己紹介は無理ですが
仲良くしてあげてくださいね。」
そう紹介されて、あたしは小さく頭を下げた。
泉 爽花、16歳。
高校2年になって2ヶ月も経たないうちに転校してきたここは
成陽(せいよう)高校。
有名な不良校で、生徒たちはみんなめちゃくちゃな外見をしている。
茶髪に金髪、腰パンにミニスカはもちろん、
赤い髪もいれば青もいるし緑もいる。銀もいる。
なんかスウェット履いてる人もいる。
そんな豊かすぎる個性をお持ちの方々の中で、
あたしは浮いていた。
ショートヘアかセミロングか微妙な長さの黒髪に、
別にミニでもロングでもない普通の長さのスカート。
化粧もしてない。
世間一般から見ればあたしは普通だろうけど、
この人たちに囲まれていると
なんだか自分が間違っているように思えてきた。