―現代―

 チャイムが鳴り響く。1時間目が終わり、休み時間になると、廊下や教室内にはたまり場ができる。俺は廊下にたまる派だけど。
「おい、達也。お前好きな女いねーの?」
「…別にいなくても人生大丈夫じゃぞ。若者よ」
「じじくせえな(笑)」
 じじくさく誤魔化す。誤魔化しや嘘なんて日常茶飯事だ。友達とか所詮、絆なんていうもろい糸のようなもんだし。
「なあ、あれ見ろよ」
 友達の早瀬蓮(はやせ れん)が指したのは、中庭を歩く同じクラスの大崎綾音(おおさき あやね)。
「可愛いよなー。日本人なのに赤毛で茶色い目だぜ?ヤバイよな」
 デレデレしすぎだろ。鼻の下めっちゃ伸びてる。いや、確かに可愛いけどさ…。
「おーい!」
 手ぇ振るなよ。小学生か。
 ニコッと笑って小さく手を振り返す綾音。
「ふうううっ!」
 テンション上がりすぎだろお前。
「うおっ!」
 ジャンプをした瞬間、窓から落ちそうになる蓮は俺を引っ張り、体勢をもちなおした。…が。引っ張られた俺はそのまま窓の外に放り出された。
「達也あああああ!」
 まるで落とされたのは自分だというくらいの叫び声をあげた。叫びてえのはこっちだっつうの。下は植木だし、大丈夫だろう。
「危ない!」
「え?」
 近くにいた綾音が落ちている俺に向かって走ってきた。いやいや、こっちきたほうが危ねえよ!
「避けろ!」
 …と言ったものの、もう植木はすぐそこ。俺の声であわてて止まった綾音(の頭)が目の前に。
「あ」
 声をもらしたときはもう、綾音と俺の頭がぶつかったあとだった。そのまま植木のなかに2人とも埋まった。俺は薄れ行く意識の中で、「助けて…」という声を確かに聞いた。