雨の日の二人

結局、家に着くまでお互い何も喋らないままだった

「…じゃあ明日ね」「…うん、バイバイ」
いつもの笑顔はなくて、少し気まずそうな顔で


『あの人と被ったんじゃないの?』


優佳のあの一言が頭から離れてくれない
違う、私はもうあの人の事を引きずっていない

『泉』
そう呼んだ彼と


『朱莉』
そう呼んでいた彼を被せるはずがないんだ


買ってきた材料を横目で見る
ころりと転がったレモン


それはあの人と私を繋ぐ唯一の思い出

『あの人以外には作らなかったじゃん、何で?』


作りたかった
レモンパイを作ることが何よりも好きだった


だけど…


作ろうとするたび、あの人を思い出して手が震えた


震える手を止めることはできなくて
結局作ることを諦めてしまっていた