僕は夕方が嫌いだ、
なんだか寂しい気持ちになる、
友達と別れないとならない。
夕日が赤くて、不安になる、
もしかしたら明日世界が無くなっちゃうかも知れないじゃないか?
ここから見える景色は本当にそんな風に見えた。
当時、住んでいたのは街から少し離れた団地の四階だったと思う。
ベランダから見える山を切り崩した風景は嫌いだった…
夜が来る。寝ている間に、
この世の全てが終わってしまっているかも知れない…
ひょっとしたら、夜が明けないかもしれないじゃないか?
明日の朝が必ず訪れると言い切れる人間なんて
この世には存在しないじゃないか?
大人は嫌いだ、嘘を付く、誤魔化す、騙し、出し抜こうとする。
だから、嫌いだ。
それに善悪について勝手な線を引き
それを越えた物には罰を与えたり、
報酬を与えたりする。
例え、それが思い込みであっても線を越えた者を裁いたりする。
しかし、両親は別だ、嘘も付くし、
都合の悪いことは誤魔化す、でも僕は大好きだ。
好きな物といえば、もちろん彼の事も大好きだ。
彼といっても僕はホモでもないし、彼は人間じゃない。
彼と出会ったのは、ある春の事だった、
小学校に向かい住宅街を抜ける通学路の途中に、
立ち並ぶ家々とは違って生け垣に囲まれた平屋の一軒家があった。
その日は何故だか、生け垣の奥が気になった。
始業を告げる退屈なチャイムよりもずっと気になった。
恐る恐る中に入っていくとそこに彼はいた、
侵入してきた見知らぬ少年に対し、
素知らぬ顔でボサボサとした茶色い体で横たわりで欠伸さえしている。
ボサボサのせいで首輪は見えなかったが、
かろうじて鎖はしてある、
その時にやっとこの家の番犬様だと理解した。
まぁ迷い込んだにしては堂々としているし、
同じ侵入者同士であればギョッとするだろう。
そこでふと泥棒が泥棒に鉢合わせになったら
どうなるんだろう…などと考えていると、
背中の方から聞き慣れた声がする。
「お~い、基ぃ学校遅れるぞ!?」…山下だ。
山下は同じクラスの友達だ、
正確には悪友と言うのだろう。
いつも、2人で悪巧みをしては、
周囲を困らせては楽しんでいた。
山下はいつも毬栗頭で半袖短パン、
冬であってもそんなスタイルで
たまに彼には四季がないのではないかと思って
「くすっ」と笑ってしまいそうになる。
典型的なガキ大将と言った感じはするが、
背はそんなに高くないがスラッとしていて、
顔立ちは悪くはない、良い奴だ。
裏も表もなくて…
「お~!今、行く!!」
僕は、彼「では、また」言うと、
鼻をヒクっとさせて相変わらず退屈そうに片目を開けた。
「面倒だからもう来るな」と言ったのか…?
「またな」と言ったのか分からないけど、
僕は勝手に後者として受け取り、そこをあとにした。
小走りに山下に駆け寄ると、
「お前、あんなとこで何してたんだよ?」と訊ねてきた…
『泥棒』と答えると山下は、
目を爛々とさせて
「マジでかよ!?で、何を?」
ちょっと意地悪に「冗談だよ(笑)」と言うと
な~んだとがっかりしたような顔をした。
それから、下らない話をしながら退屈な学校へ向かった気がする。

