―――ツリバシコウカ。


一瞬、言葉が飲み込めなかったけど、“つり橋効果”のことだよね?


「えっと…つり橋を一緒に渡ったらドキドキして恋に落ちちゃうってやつ?」


「うん、そう。正確には恋してるわけじゃないけどね」


「そう、なの?」


「あれは、つり橋を渡るときの緊張やハラハラを、相手を意識している気持ちと勘違いして恋だと思い込むんだ」


?奏くんは何が言いたいんだろう?


「小島さん、さっき俺が手を触ったとき、ドキドキしてたでしょ?」


ギクッ、と胸の奥が鳴った。


「図星?小島さんホントわかりやすいよね」


奏くんはケラケラと笑った。
彼のこーゆう笑い方は嫌い。


「何かむなしいよね。人を好きになるって」


奏くんはつないだ手にキュッと力を込めた。


「こうやって手が触れた緊張といたたまれなさをトキメキだと思ってしまうんだからさ」


静まれ!静まれ!


そう心の中で唱えても、私の心臓は勝手にバクバクと鳴り響いた。


「……って、ごめん。ただの八つ当たりだな」


「え?」


奏くんがボソリと何か呟いたけど、よく意味がわからなかった。


「全然反省してないね、俺。ちょっと頭冷やしてくるわ」


そう言って手を離すと、奏くんは教室と反対の方向へ消えた。