とにかく私はチャイコだ。
名前は自分では変えられない。
もし変えたとしても、愛子さんには変わらず「チャイコ」と呼ばれるのだから、変える意味がない。


因みにこのマロンさんは、秋生まれだから付けられた名前だそうだ。
本人は単純すぎる、と不満気だが、私からしたら羨ましい限りだ。



「あ、そうそう、8丁目のイエモンさんのとこ、新しく犬を飼ったらしいよ」



私は耳をぴんと立てた。



「犬ですって?」


「イエモンさんも災難だよね。家に出入りする度にわんわん、吠えられるんだもの。私だったら家出しちゃう。だからチャイコさん、気をつけて」


「どうもありがとう」



大きな白描のイエモンさんの御宅の塀は、私の週一の散歩コースなのだ。
知らないで通ったら、吠えられて、ストレスで毛が抜けるところだった。
おばさんに感謝だ。


夕方になると私たちは別れる。
家の人がみんな帰ってきて、私たちを探すからだ。
余計な心配をかけるのは、飼われる者としてはよくないことなのだ。
頬ずりされる回数が増えるし、排斥される原因にもなり得る。