「アヤ」


不意に呼ばれて振り返ると、着物から制服に着替えた嘉乃が立っていた。


「嘉乃。シフト終わったの?」


「うん、アヤも上がっていいって。…あ、ほら、次の受付、樫野くんだから」


そう言った嘉乃の視線の先を見ると、すでに疲れたような顔の樫野くんが立っていた。


なんだかやけに似合う、吸血鬼のような格好で。


「吸血鬼?それ、自分で買ったの?」


「ちげーよ。お化け屋敷やるって言ったら、先輩がくれた」


吸血鬼の衣装持ってる先輩って…。


「毎年、どこかしらのクラスがお化け屋敷とかコスプレ系とかやんだろ?それで、その先輩も去年使ったんだってさ」



私の表情から言いたいことを読み取ったように、樫野くんはそう説明してくれた。


なるほど。



「そうなんだ。じゃあラッキーだったね。……あれ、ていうか樫野くんって受付じゃなくない?」


同じ受付係にはいなかったはずだ。


てことは、お化け役で、脅かす係なはず。



「あー、暗いと足元危ないだろ?怪我人は明るいとこにいろって言われた」



少し言いにくそうに、樫野くんはそう言った。



「え…、そうなの?なんかごめん、ホント…」


「ごめんね、樫野くん」



怪我させた側である私と嘉乃が申し訳なさそうなのを見て、樫野くんは眉をしかめる。