……どうして視線を合わせてくれないんだろう。
ていうか、なんか、顔、赤くない?
気のせい?
「は、早く戻ろうぜ」
「うん…」
声、若干上ずって聞こえたのも、気のせいですかね…?
「……樫野くん、もしかして、さっきの先生の話、気にしてるの?」
少しだけ先を歩く樫野くんに、そう声を掛けた。
「はっ!?」
すると、ぐるんっ、と、怪我人とは思えない勢いで振り返った樫野くん。
「気にしてるってなんだよ!」
「だって、なんか変だから…。樫野くんって恋愛に免疫なさそうだから、あれくらいでも気にしちゃうのかなって。…大丈夫、安心して、私樫野くんのことちゃんと友達だって思ってるから!」
好きとか、思ったことないから!
こいつ本当に俺のこと好きだったらどうしよう、とか不安になってたんじゃないかと思って、私は安心させるように大きく頷いて、言った。
すると、樫野くんは一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、そして、何故か不機嫌そうに眉を顰めた。
「…免疫ないってなんだよ!岬に言われたくねーし!」
「え、だってそうでしょ?野球が恋人なんじゃないの?」
「そんなわけあるか!」
そう言った樫野くんは、いつもの樫野くんだった。
「あーあ。しっかし無駄なことに時間使っちまったな。俺と岬とか、一体どうやったらそう見えるんだか」
「ホントだよね」
窓から差し込む西日が少しだけまぶしい。
いつもなら、もうほとんどの生徒が下校してる時間だけど、今日はたくさんの笑い声で溢れてて。
同じ場所なのに、なんだか、いつもよりあったかいな、なんて思った。


