「じゃあさ、悪いんだけど俺の代わりにここでバランス見てくんない?女子の桜木に付ける方やらせて俺がここで見てるって、なんかあれだろ」
「ふーん…。別に嘉乃はそんなん気にしてないと思うけど」
やりたくてやってるだけだ、絶対。
「でも、確かにもう少し人手があった方がいいね。いいよ、私見てるから、樫野くんは取り付け隊にまざってきなよ」
「取り付け隊?」
「暗幕取り付け隊。さっきから心の中でそう呼んでた」
私の言葉に、男子、……樫野翔也(かしの しょうや)くんは、なんだそれ、と言いたげな呆れた顔をした。
……ひどくない?
「岬のネーミングセンスは相変わらずだな」
「ほっといてよ。ほら、見るのは私が代わるからちゃっちゃと取り付ける!」
ぐいっ、と樫野くんの背中を押して、取り付け隊に合流させる。
まったく、失礼な男だ。
もしかして、あれか?
部活中に勝手に私が心の中で『かしかし』なんて呼んでたのをまだ根に持ってるのか?
なんて心の狭い男!
「……岬、心の声漏れてる。そしてお前は俺をそんなふうに呼んでたのか」
「アヤ、さすがにかしかしはないわ」
嘉乃にまでダメ出しされた。
えー、私2年半ずっとかしかしって呼んでたのに。
心の中でだけど。
「いいじゃん可愛いじゃんかしかし!」
実際口に出してみるとかなり言いづらいけど!
私が叫ぶと、暗幕を持ちながら椅子の上に立った樫野くんは、焦ったような顔で私を見た。
「ふっざけんなおまえそんな大声で呼んだら定着すんだろ!?」
「かしかしうるさい。口じゃなくて手を動かせ」
「かしかし、そこの画びょうとって」
……ごめん、かしかし、もう遅かったみたい!


